
シェア畑の畝(うね)には、おすすめのレイアウトがある。好きな野菜を組み合わせながら、だいたいみんな同じような感じで植え付ける。

▲だいたいみんな茎ブロッコリーとキャベツとナバナを植えている二番畝
と思っていたら、秋冬シーズンの畝の一つは、農園に用意のある種から好きなものを蒔いて良いと聞いた。突然の自由。びっくりした。自由? ウヒョ~イ!
[編集部注:農園によって作付けプランが異なることがあります。]
菜園アドバイザーさんが用意してくれている種は大根、カブ、水菜、レタス、ほうれん草、小松菜など沢山あった。この中だと水菜かなあ、家族もよく食べるので水菜を育てようかしらね……とか考えていたんだけど、まわりの人に聞くといろいろな種類を少しずつ蒔く予定らしい。ああ、いろいろやっていいのか。そりゃあそうか。その発想が出なかったことにシンプルに落ち込む。僕は、自由の行使が下手すぎる。自由を求める貪欲さが無いのかもしれない。服装自由のパーティーにも普段使いのスーツを着ていって、開けたシャツの第一ボタンでミクロな自由を表現する。「先輩、いつもスーツっすよねー」フフ、君には見えないかね? 僕は今、自由を謳歌しているんだよ……
そういうわけで、いろいろな種を蒔こうと思った。数種類を育てても大変さがあまり変わらないのが野菜のいいところだ。動物だったらこうはいかなくて、例えば犬を10種類同時に飼うのには覚悟が要る。野菜10種類だと全然アリなので、野菜は犬よりすごいと思う。
さて、穴あきマルチを畝のサイズに合わせてカットして、土にかぶせる。この穴に種を蒔いていく。

▲穴あきマルチ。最初から穴が空いていて便利なメンバー
数えると穴は32個あった。そこに4個ずつ種を蒔いていくという。つまり計128個の種を埋めることになる。えっ128個も? 2の7乗で名高いあの128さんッスか? 多くない? と思ってしまった。こういうのは具体的な数字を知らないまま有耶無耶なうちに終わらせたほうがいい。
ところで僕は仕事の前に畑へ寄って作業をすることが多い。その日もそんな感じだった。とりあえず手を動かさないと終わらないなと気が焦った。それで、あまり考えずに種を蒔き始めた。一列ずつ種類を変えていこうか。でも水菜と小松菜は旨いから多めに欲しいなあ、とか、心の赴くままに種を土に埋めていった。黎明期のロボット掃除機でももうちょっと計画的に動く。あと、こういうときに限って仕事の電話がたくさん掛かってきて、先方がトラブルめいたことを言ってくる。作業中、3回も掛かってきた。そのうち、どこまで蒔いたのか自信がなくなってきた。なんとなく一列抜かしたような気がして、その列に、まだ蒔いていない種類の大根の種を蒔いていたら、何かの種が発掘された。あと最初に植えたの何だっけ。こうして無事に、どこに何を蒔いたのかよく分からない畑が完成した。どうすんだこれ。
ただまあ、128個(以上?)の何かを埋めたことは事実。まずはそれを讃えよう。だから何かの芽はきっと出てくる。それならば、どの穴から何が出てくるか、そのことすらも楽しもうじゃないか。そういう考えに至った。大きくなったときに正解が分かる「この穴なんだろな農法」の誕生だ。

▲穴から何らかの芽が出てきた。雑草の可能性も少しある
しかし、何も生えない穴が結構ある。明らかに発芽率が悪い。おかしいな。
教科書をめくると、思い当たることがあった。種を蒔いたあとの「鎮圧」を、今回完全に忘れた。鎮圧とは、種を埋めたあと上から土をギュッと押すことで、まあ、あれだ、こう、ギュッとなって、そっちのほうがいいのだ。初心者としてはなんとなく土がフカフカしているほうが芽は出やすいのでは? なんて思うんだけど、そんなことは無いらしい。
鎮圧は初回講習で習うし、教科書にも説明がある。せっかく農についていろいろ教わったのに、当日は焦っていたので小学生の朝顔の種まき感覚で無意識に作業をこなしてしまった。焦ると動作レベルが下がることってよくあって、僕は焦ってキーボードを打つとき、パソコンを覚えたばかりのときの癖がついつい出て、中指だけで打ってしまう。ちなみにこの原稿は締切日の夕方に書いている。この文章が中指オンリーで打たれていると思ってから読み返すと、また違った感情が生まれるのではないでしょうか。特に生まれないですね。
何の話だっけ。そう、僕の自由畝はどうしようもなかった。やっぱり僕は、自由の行使が下手すぎる。

それでもけっこう育つのですごい。鎮圧を忘れた僕なんかにも野菜は優しい。もしかして僕のこと好きなのかな。僕は君たちのことが好きです。

ところで正解は、右から小松菜、水菜、カブ、レタス(はほぼ全滅)、手前に点々と大根でした。まあまあ規則正しく植えていた。何も生えなかった穴からも遅れて芽が出てきたり、蒔き直したりして、結果的に食べきれなくて友達に分けるくらいの収穫量だった。これは、成功と言って良いのではないでしょうか。成功のハードル低すぎていいでしょう? まあ真面目な話、自分用なので楽しければ成功。

▲良い感じに育ったカブたち

▲小松菜と水菜です
しかし、収穫期に毎回思うんだけど、見知った野菜を自分で作れているという状況、いまだにめちゃくちゃ面白い。「なんで?」と思うことがある。「なんで、私が東大に!?」という某学習塾のキャッチフレーズの「なんで、」とニュアンスが似ている気がする。全然違うかもしれない。
ところで先日、採れたカブで漬物を作ったところ、最高に良い仕上がりになった。

調味料は目分量だし、大したものは入っていないんだけど、素材がいいんだと思う。畑で採れるものはだいたい旨いけれど、いちばんのヒットかもしれない。最近はこれを食べるために白飯を炊いているふしがある。妻が僕の留守中に消費していた。いや、全然食べてくれて良い、というか食べて欲しいんだけど、僕の作り置きを妻が昼間に消費することは今まで無かったので、妻をも動かすこの旨さ、本物なのではと思ったのだった。
とにかく僕たちはいま、もっともっとカブを漬けたいし食べたい。しかしカブは4個しか育っておらず、うち2個をすでに食べてしまった。カブのポテンシャルを完全に見誤った。
自由畝、全部カブにしたら良かったかもしれない。
間引いたヒョロカブをこっそり育てる|ヤスノリさんのシェア畑 vol. 3
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