さて、《おうちで畜産!?ーお蚕さんがやってきた》後編です。
前編では、「お蚕さん」を飼うことになった経緯と飼育の前半を中心にご紹介しました。後編は「お蚕さん」ライフの楽しみとの飼育の後半をご紹介します。昔は「農業」の一つとして盛んだった「お蚕さん」の飼育ですが、with コロナの時代の「おうち時間」の過ごし方の1つとして、興味を持っていただけますと幸いです。
もしかすると大前提として「昆虫やイモムシ、おまけに蛾(ガ)なんて大嫌い、写真を見るのもイヤ。」というかたもいらっしゃるかもしれませんが、例えば上の蚕蛾のズーム写真。モフモフで黒めがちの大きな瞳、ジブリの「ナウシカ」に登場するキツネリスに似ていませんか?ちなみに、小学4年生の息子は「モスノウ」!と、言っていましたが、1令から5令、そして成虫への進化の過程は「ポケットモンスター」のキャラクターの1つである「ユキノミ」とその進化形「モスノウ」で、リアル「ポケモン」体験でした。
今回の飼育で私が分かったことは、「お蚕さん」魅力は、「絹糸」を取るということ以外にも、①卵から成虫までのスパンが短い(約2ヶ月)、②おとなしくて飼いやすい、③お世話が楽(桑の葉の入手が困難であれば専用フードもある)、④ルックスが可愛い、⑤進化の過程が楽しめる。ということ。下の写真は、進化の過程で変化する顔のアップです。左上から右へ順に3令〜5令、そして繭の中のサナギですが、虫が苦手な方も、視点を変えてみると、「虫嫌い」のハードルが少しやわらぐかもしれません。
せっかくなので、進化の過程について幼虫から蛹になる部分を詳しくご紹介します。
もりもり桑の葉を食べ、4回目の最後の脱皮が終わった後の5令の幼虫は、やがて体全体が黄色っぽくなり、桑を食べなくなり、蛹になる準備を始めます。そこで、幼虫たちが繭を作りやすいように「まぶし」と呼ばれる小さなおうちを用意します。ダンボールや厚紙などで格子状のものを作ることが多いのですが、私は透過で観察しやすいようにボール紙をまるめて積み重ねてみました。すると、1匹につき1部屋、申し合わせたかのように「まぶしアパート」に入居し、口から糸をはき繭作りを始めます。
幾重にも幾重にも丹念に糸を紡ぎ、まぶしに糸を張り巡らせ繭を形成するお蚕さん。透き通った繭がだんだん丸くなり、やがて幼虫の姿が見えなくなっていく様子は神秘的な光景でした。仕事を忘れて動画を撮ったり、観察したりの私でしたが ^^;、自粛期間でおうち時間が長かったからこそできたことでした。
さて、繭になってから給餌(桑の葉を穫って与える作業)が皆無になり、毎日が一気に静まりかえったようになりましたが、その間に私は、この繭をどうするかを考えなくてはなりませんでした。通常、絹糸を取ることが目的の「養蚕」であれば、成虫(蛾)になる前に「繭」を煮て中のサナギを殺してしまうのですが、「お蚕さん」に愛着がわいてしまい、私は「繭」を煮る=サナギの命を絶つということに抵抗がありました。
ただ、そのまま繭から成虫を羽化させる場合、成虫が繭から出て来る時に「蛾尿」という赤褐色の尿を出すので繭が汚れてしまう可能性があります。きれいな繭を採取しつつサナギも羽化させるためにどうしようかと考えて、繭をカッターで切り開き中から先にサナギを取り出すことにしました。この方法では、1本の糸でつながっている繭を切断してしまうため、通常の方法で生糸として紡ぐことはできないので、「繭」はクラフトや「真綿」と呼ばれる「綿」にして使うことにしました。(写真は産卵風景)。
「繭」になってから 12 日後。そうこうしているうちに、「繭」から取り出したサナギがムニムニと動き始め、にわかに羽化が始まりました。ここが「お蚕さん」飼育終盤のハイライトです。メスが羽化するやいなや、先に羽化したオスたちがフェロモンを嗅ぎ取って、一斉に羽をふるわせてメスに集まり「メス争奪戦」が始まります。本能や生命の神秘、オスの悲しい性(さが)を目の当たりにすることになるわけですが、この争奪戦ではオスは羽がボロボロになるまでメスを奪い合い、羽ばたき続けます。あまりの激しさに動揺してしまい(汗)、メスとオスを別々のケースに分けてしまいましたが、メスのフェロモンが漂わなくなるとピタリと動かなくなり、その場でただただじっとしているオスの姿も、それはそれで切ないものがありました…。
そして、私は初めて知ったのですが「割愛」という言葉の由来。これは「お蚕さん」の交尾の様子から来ているのだそうです。「割愛=惜しいと思うものを、思いきって捨てたり、手放したりすること。愛着の気持ちを断ち切ること。恩愛や煩悩を捨て去ること。」と、辞書にありますが、1対だけ交尾させたオスとメスもこの言葉の由来どおり、人間が離さない限り、延々と交尾し続けていたのでした…(下の写真)。
こうして、約2ヶ月。「お蚕さん」の飼育は、短くも奥深くあっという間に過ぎて行きました。成虫になった「お蚕さん」たちは、餌も食べずにそのまま命が尽きるまで生き続けます。が、私は息子と相談して、生きている成虫の「お蚕さん」を最後、NPO で飼っているウコッケイの生き餌にすることにしました。
生きているうちにウコッケイの餌になり、栄養となり、血となり、肉となる。そして、そのウコッケイが栄養たっぷりの卵を産み、最後にそれが人間の食べ物になる。」という、「命の循環」を息子に説明したかったからです。ちなみに、「お蚕さん」から採取した「繭」は、写真のように、繭の凸凹の表面をそのまま使ってくるみボタンにしてピアスにしてみました。残りの繭は、真綿にして、針刺しの中の綿として使う予定です。
お世話をしていたようで、お世話をされていたのは人間の方だったのではないかとおもうくらいに学びの多かった「お蚕さん」。最後に一区切り、立川市の阿豆佐味天神社(水天宮)にある「蚕影(こかげ)神社」へお参りにいきました。名前のとおり「養蚕」の神様ですが、こちらの神社は「猫」の狛犬や三毛猫の絵馬がありちょっとユニーク。と、いうのもかつて養蚕農家は「お蚕さん」をねずみから守るために天敵である「猫」を飼っていたことから、「蚕影神社」では「養蚕守護」の象徴や「養蚕神の神使」として「猫」を祀るところも多いそうです。この神社の場合も、ジャズピアニストの山下洋輔さんが「居なくなった猫が帰って来るように願ったら猫が帰って来た」というエピソードがあり「猫返し神社」と呼ばれ、現在は「お蚕さん」よりも「猫さん」目当てで多くのかたが参拝しています。
●参考リンク 立川市の阿豆佐味天神社
https://azusami-suitengu.net/
前編、後編と「お蚕さん」との熱くて厚い日々を、なるべく暑く(るしく)ならないように、まとめてみましたが、いかがでしたでしょうか。もし、少しでもご興味をもたれましたら、ぜひ、「おうちで畜産」に挑戦してみてください。心と体を健やかに、with コロナの時代を乗り越えていきましょう。
●参考リンク NPO 法人くにたち農園の会「おうちで蚕を育てよう!お蚕フレンズプロジェクト」part3
https://www.facebook.com/events/3083521448357530
前編では、「お蚕さん」を飼うことになった経緯と飼育の前半を中心にご紹介しました。後編は「お蚕さん」ライフの楽しみとの飼育の後半をご紹介します。昔は「農業」の一つとして盛んだった「お蚕さん」の飼育ですが、with コロナの時代の「おうち時間」の過ごし方の1つとして、興味を持っていただけますと幸いです。
リアル「ポケモン」!もしくは「ナウシカ」の「テト」!
もしかすると大前提として「昆虫やイモムシ、おまけに蛾(ガ)なんて大嫌い、写真を見るのもイヤ。」というかたもいらっしゃるかもしれませんが、例えば上の蚕蛾のズーム写真。モフモフで黒めがちの大きな瞳、ジブリの「ナウシカ」に登場するキツネリスに似ていませんか?ちなみに、小学4年生の息子は「モスノウ」!と、言っていましたが、1令から5令、そして成虫への進化の過程は「ポケットモンスター」のキャラクターの1つである「ユキノミ」とその進化形「モスノウ」で、リアル「ポケモン」体験でした。
今回の飼育で私が分かったことは、「お蚕さん」魅力は、「絹糸」を取るということ以外にも、①卵から成虫までのスパンが短い(約2ヶ月)、②おとなしくて飼いやすい、③お世話が楽(桑の葉の入手が困難であれば専用フードもある)、④ルックスが可愛い、⑤進化の過程が楽しめる。ということ。下の写真は、進化の過程で変化する顔のアップです。左上から右へ順に3令〜5令、そして繭の中のサナギですが、虫が苦手な方も、視点を変えてみると、「虫嫌い」のハードルが少しやわらぐかもしれません。
糸を紡ぐ「お蚕さん」に仕事も忘れて ...
せっかくなので、進化の過程について幼虫から蛹になる部分を詳しくご紹介します。
もりもり桑の葉を食べ、4回目の最後の脱皮が終わった後の5令の幼虫は、やがて体全体が黄色っぽくなり、桑を食べなくなり、蛹になる準備を始めます。そこで、幼虫たちが繭を作りやすいように「まぶし」と呼ばれる小さなおうちを用意します。ダンボールや厚紙などで格子状のものを作ることが多いのですが、私は透過で観察しやすいようにボール紙をまるめて積み重ねてみました。すると、1匹につき1部屋、申し合わせたかのように「まぶしアパート」に入居し、口から糸をはき繭作りを始めます。
幾重にも幾重にも丹念に糸を紡ぎ、まぶしに糸を張り巡らせ繭を形成するお蚕さん。透き通った繭がだんだん丸くなり、やがて幼虫の姿が見えなくなっていく様子は神秘的な光景でした。仕事を忘れて動画を撮ったり、観察したりの私でしたが ^^;、自粛期間でおうち時間が長かったからこそできたことでした。
サナギと繭、どうするか問題。
さて、繭になってから給餌(桑の葉を穫って与える作業)が皆無になり、毎日が一気に静まりかえったようになりましたが、その間に私は、この繭をどうするかを考えなくてはなりませんでした。通常、絹糸を取ることが目的の「養蚕」であれば、成虫(蛾)になる前に「繭」を煮て中のサナギを殺してしまうのですが、「お蚕さん」に愛着がわいてしまい、私は「繭」を煮る=サナギの命を絶つということに抵抗がありました。
ただ、そのまま繭から成虫を羽化させる場合、成虫が繭から出て来る時に「蛾尿」という赤褐色の尿を出すので繭が汚れてしまう可能性があります。きれいな繭を採取しつつサナギも羽化させるためにどうしようかと考えて、繭をカッターで切り開き中から先にサナギを取り出すことにしました。この方法では、1本の糸でつながっている繭を切断してしまうため、通常の方法で生糸として紡ぐことはできないので、「繭」はクラフトや「真綿」と呼ばれる「綿」にして使うことにしました。(写真は産卵風景)。
おそるべし、フェロモン、そして「割愛」。
「繭」になってから 12 日後。そうこうしているうちに、「繭」から取り出したサナギがムニムニと動き始め、にわかに羽化が始まりました。ここが「お蚕さん」飼育終盤のハイライトです。メスが羽化するやいなや、先に羽化したオスたちがフェロモンを嗅ぎ取って、一斉に羽をふるわせてメスに集まり「メス争奪戦」が始まります。本能や生命の神秘、オスの悲しい性(さが)を目の当たりにすることになるわけですが、この争奪戦ではオスは羽がボロボロになるまでメスを奪い合い、羽ばたき続けます。あまりの激しさに動揺してしまい(汗)、メスとオスを別々のケースに分けてしまいましたが、メスのフェロモンが漂わなくなるとピタリと動かなくなり、その場でただただじっとしているオスの姿も、それはそれで切ないものがありました…。
そして、私は初めて知ったのですが「割愛」という言葉の由来。これは「お蚕さん」の交尾の様子から来ているのだそうです。「割愛=惜しいと思うものを、思いきって捨てたり、手放したりすること。愛着の気持ちを断ち切ること。恩愛や煩悩を捨て去ること。」と、辞書にありますが、1対だけ交尾させたオスとメスもこの言葉の由来どおり、人間が離さない限り、延々と交尾し続けていたのでした…(下の写真)。
さようなら、ありがとう「お蚕さん」
こうして、約2ヶ月。「お蚕さん」の飼育は、短くも奥深くあっという間に過ぎて行きました。成虫になった「お蚕さん」たちは、餌も食べずにそのまま命が尽きるまで生き続けます。が、私は息子と相談して、生きている成虫の「お蚕さん」を最後、NPO で飼っているウコッケイの生き餌にすることにしました。
生きているうちにウコッケイの餌になり、栄養となり、血となり、肉となる。そして、そのウコッケイが栄養たっぷりの卵を産み、最後にそれが人間の食べ物になる。」という、「命の循環」を息子に説明したかったからです。ちなみに、「お蚕さん」から採取した「繭」は、写真のように、繭の凸凹の表面をそのまま使ってくるみボタンにしてピアスにしてみました。残りの繭は、真綿にして、針刺しの中の綿として使う予定です。
エピローグ〜「蚕影神社」へお参りへ
お世話をしていたようで、お世話をされていたのは人間の方だったのではないかとおもうくらいに学びの多かった「お蚕さん」。最後に一区切り、立川市の阿豆佐味天神社(水天宮)にある「蚕影(こかげ)神社」へお参りにいきました。名前のとおり「養蚕」の神様ですが、こちらの神社は「猫」の狛犬や三毛猫の絵馬がありちょっとユニーク。と、いうのもかつて養蚕農家は「お蚕さん」をねずみから守るために天敵である「猫」を飼っていたことから、「蚕影神社」では「養蚕守護」の象徴や「養蚕神の神使」として「猫」を祀るところも多いそうです。この神社の場合も、ジャズピアニストの山下洋輔さんが「居なくなった猫が帰って来るように願ったら猫が帰って来た」というエピソードがあり「猫返し神社」と呼ばれ、現在は「お蚕さん」よりも「猫さん」目当てで多くのかたが参拝しています。
●参考リンク 立川市の阿豆佐味天神社
https://azusami-suitengu.net/
前編、後編と「お蚕さん」との熱くて厚い日々を、なるべく暑く(るしく)ならないように、まとめてみましたが、いかがでしたでしょうか。もし、少しでもご興味をもたれましたら、ぜひ、「おうちで畜産」に挑戦してみてください。心と体を健やかに、with コロナの時代を乗り越えていきましょう。
●参考リンク NPO 法人くにたち農園の会「おうちで蚕を育てよう!お蚕フレンズプロジェクト」part3
https://www.facebook.com/events/3083521448357530
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